乳房再建の方法は、大きく分けて、自家組織を用いた乳房再建(身体の一部を移植する方法:筋皮弁法)と人工乳房を用いた乳房再建(インプラント法)の2種類になります。 また自家組織と人工乳房を用いた乳房再建を一緒に行う場合もあります。 これは広背筋皮弁+人工乳房の場合です。胸に筋肉(大胸筋)がない場合で健側の胸が大きく、腹直筋皮弁が使用できない方が適応になります。

インプラント法

胸の筋肉(大胸筋)の下に、組織拡張器という胸の皮膚・筋肉を伸ばす装置をいれる手術を行います。約6ヶ月の間、生理食塩水を3~4週間に1回の割合で、組織拡張器へ注入(外来で行う)して徐々に組織拡張器を膨らましてゆくと胸の皮膚も膨らんできます。約6ヶ月後に十分に皮膚・筋肉が伸びたところで人工乳房を入れて乳房を作る方法です。


人工乳房には生理食塩水が入ったバックやシリコンが入ったコヒーシブシリコンバック(乳房の形をしたもの)などがあります。この方法は乳房形態が美しく形成できるのが特徴です。手術時間が短く、手術侵襲が少なく、また身体の他の部位に新たな傷を作ることもありません。このため年々施行する方が増えてきています。

利点と欠点(筋皮弁法との比較)

利 点
1) 胸の皮膚が徐々に膨らむので皮膚の色調が同じである
2) 筋皮弁法に比べると知覚が障害されることが少ない
3) 乳癌手術時の傷あとの部位から挿入するので、傷あとが胸に
1箇所のみで体の他の部位に新たな傷あとができない
4) 手術時間が短い(約1時間程度)
5) 手術侵襲、出血が少ない
6) 入院期間が短い(約7日間)
欠 点
1) 手術が2度必要である(組織拡張器を入れる手術と人工乳房を入れる手術)
2) 組織拡張器を膨らませるための通院が必要である(通常3~4週間に1回、遠方の方は1~2ヶ月に1回)
3) 人工物なので破損の可能性がある
4) 感染の可能性がある
5) 約10年から15年くらいで入れ換えを検討する必要がある
(加齢で胸が小さくなる場合は小さい人工乳房に入れ換えることができる)

手術方法

2回に分けて手術を行ないます

1)組織拡張器挿入

乳がんの手術時(一期再建)、または術後しばらくしてから(二期再建)に実施
胸の皮膚・筋肉を伸ばすことを目的に、組織拡張器を大胸筋の下に入れます。このときは左右対称にはなりません。約3~4週間に1回、外来にて手術した側の胸の方が大きくなるまで皮膚・筋肉を伸ばします。組織拡張器は、以下の2種類があります。
スムースタイプ
従来のタイプで乳房の形をしておらず、球型。
テクスチャードタイプ
スムースタイプの改良型。
様々な乳房の形に合ったものがありスムースタイプと比べて、
  *再建乳房が変形しにくい(被膜拘縮が起こりにくい)
  *術後エキスパンダーが移動しにくい
といった点が改良点として挙げられます。
現在 保険適用になっているのは、テクスチャードタイプです。

2)人工乳房(コヒーシブシリコンバッグ)へ入れ換え

組織拡張器挿入から6ヶ月以降、十分皮膚・筋肉が伸展した後に実施
 

このときに健側の大きさ・形に合ったものを選び、左右のバランスが合うように調節します。コヒーシブシリコンバッグの外側は3重の膜で覆われているので破れにくくなっています。しかし、あくまでも人工物ですので永久的な耐久性は確保されていません。約10年から15年くらいで入れ換えを検討する必要があります。

将来その時代にもっとも適切と考えられる人工乳房に入れ換えを行うことが望ましいです。10年~15年経てば再発の可能性が少なくなるので、その時点で筋皮弁法を選択することもできます。


構造:3重の膜に覆われています。

形状:乳房の形をしています。シリコンバッグの中はようかんやういろうのような質感の固着性シリコンでできています。 破れてもシリコンが出ないように工夫されています。
術 後
痛み等は自家組織による再建と比べて少なく、手術当日より食事や歩行は可能です。
ドレーンがとれれば、退院できます。1ヶ月すれば水泳・ゴルフ等の運動も可能です。

腹直筋皮弁法(筋皮弁法)

筋皮弁法の一つ。身体の一部(お腹の皮膚,脂肪,筋肉)を移植する方法です。

利点と欠点(インプラント法との比較)

利 点
1) 自家組織なので違和感がない
2) 柔らかい
3) 加齢にともない多少下垂してゆく
欠 点
1) 他の部位から皮膚が胸に移植されるので皮膚の色調が異なる
2) 他の部位から皮膚が胸に移植されるので感覚が鈍い
3) 体の他の部位にかなり大きな傷あとができる(背中やおなか)
4) 多くの場合、追加・修正手術が必要なことがある
(一回の手術で完全に乳房が出来上がるわけではない)
5) 手術時間が長い(約5~8時間)
6) 入院期間が長い(約3週間~1ヶ月)
7) 長期経過では筋肉の萎縮により、再建した乳房が小さくなっていく傾向がある

手術方法

腹直筋皮弁法(お腹の皮膚、脂肪、筋肉を用いる方法)

適 応
* 人工物を使いたくない方
* 乳がんの手術で胸の筋肉(大胸筋)が無い方
* 健側の乳房が大きい方
* ご本人の希望(腹部の脂肪が多い方)
* 将来お産を希望されない方
腹部の筋肉と脂肪を含めた皮膚で乳房を再建します。
術 後
おなかの筋肉が弱くなるので、妊娠を予定されている方は出来ません。痛みは広背筋皮弁にくらべるとあります。術後1日目より食事はできますが、術後3日間はベッド上安静が必要です。1ヶ月は入院が必要です。
退院後は日常生活に支障は来さない方がほとんどです。スポーツは術後3ヶ月くらいからできます。水泳やゴルフなどの運動も可能です。

広背筋皮弁法(筋皮弁法)

筋皮弁法の一つ。身体の一部(背中の皮膚,脂肪,筋肉)を移植する方法です。

利点と欠点(インプラント法との比較)

利 点
1) 自家組織なので違和感がない
2) 柔らかい
3) 加齢にともない多少下垂してゆく
欠 点
1) 他の部位から皮膚が胸に移植されるので皮膚の色調が異なる
2) 他の部位から皮膚が胸に移植されるので感覚が鈍い
3) 体の他の部位にかなり大きな傷あとができる(背中やおなか)
4) 多くの場合、追加・修正手術が必要なことがある
(一回の手術で完全に乳房が出来上がるわけではない)
5) 手術時間が長い(約5~8時間)
6) 入院期間が長い(約3週間~1ヶ月)
7) 長期経過では筋肉の萎縮により、再建した乳房が小さくなっていく傾向がある

手術方法

広背筋皮弁法(背中の皮膚,脂肪,筋肉を用いる方法)

適 応
* 人工物を使いたくない方
* 乳がんの手術で胸の筋肉(大胸筋)が無い方
* 健側の乳房が大きくない方
* 将来お産を希望される方

背中の筋肉と脂肪を含めた皮膚で乳房を再建します。

術 後
手術翌日より歩行は可能です。日常生活にとくに大きな支障は来さない方がほとんどです。
数ヶ月すれば水泳・ゴルフなどの運動も可能です。

広背筋皮弁法+人工乳房を用いる方法

適 応
* 乳がんの手術で胸の筋肉(大胸筋)が無い方
* 健側の乳房が大きい方
* おなかに手術の傷あとがあり、腹直筋皮弁が使えない方
* 放射線を照射しているので胸の皮膚がのびない方

広背筋皮弁を移植と同時に組織拡張器を筋肉の下に挿入します。
その後、組織拡張器を膨らまして約6ヶ月後に人工乳房を入れて乳房を作る方法です。

術 後
手術翌日より歩行は可能です。日常生活にとくに大きな支障は来さない方がほとんどです。
数ヶ月すれば水泳・ゴルフなどの運動も可能です。

乳房再建の時期

乳房再建の時期は乳がんの手術の際に行う一期再建と、乳がん術後に行う二期再建とがあります。一期再建は手術回数・費用の軽減になることが、最大のメリットです。インプラント法では、しばしば一期再建が行われます。デメリットは、一期再建は乳がんの診断がついた、精神的に不安定な時期に重なり、考える時間が少ないことです。一期再建の希望がある方、または悩まれている方は、早めに形成外科医や乳腺外科医に御相談下さい。

二期再建は、乳がんの治療がひと段落ついた頃(一年目以降)に行いますので、手術の必要性や手術方法をゆっくり決めることが出来ます。手術回数・費用に関しては一期再建に比べて多くなります。再建の意志が固い場合は一期再建が良いでしょうし、悩まれているのであれば焦らずに二期再建でも良いかもしれません。

健側の乳房との比較

失った乳房と同じ乳房が再建できるわけではありません。もちろん出来るだけ左右のバランスが合うように手術を行います。なるべく違和感のないように再建するよう努力するのが目標ですが、乳癌手術のときに乳腺が切除されているのでご自分の組織の量が不足していることと、人工乳房はオーダーメイドではないので再建された乳房にはある程度の左右差は生じます。

また、人によって皮膚の伸び方、傷の治り方は様々なので、同じという訳にはいきません。しかし、水着や薄い服を着ていたら手術をされたことは分からないでしょうし、温泉に行けるようになります。ご本人の希望により、左右の対称性を出すために、健側の乳房下垂がある方は乳房縮小固定術を、乳房が小さい場合は豊胸術を行うこともあります。

起こりうる合併症

乳房再建に特徴的な合併症を挙げると以下のようなものがあります。
1) 皮下血腫・漿液腫(インプラント法、筋皮弁法)

手術をした部位に血液やリンパ液が溜まることがあります。自然に吸収されることが多いのですが、簡単な処置(穿刺)を行ったり小切開を加えて対応する場合もあります。放置すると感染を生じることがあります。


2) 血流不全・脂肪融解 (筋皮弁法)

皮弁の血流が不十分で、脂肪や筋肉などの組織が死んでしまうことがあります。喫煙者や肥満、糖尿病などの合併症をもつ方に多い傾向があります。


3) 皮膚の壊死 (筋皮弁法)

皮膚の緊張が強かったり、血流が悪かったりするところがあると、皮膚の一部が壊死して傷の治りが悪く、傷口が離れるときがあります(約5%程度)。


4) 感染 (インプラント法)

全国的にはあらゆる人工物を用いた手術で約0.5~2%程度の発生率です。(数値は報告する施設により異なります) 抗生物質の予防的投与とともに、手術中はとくに注意深く感染に対する配慮を行っています。人工物の周りに感染が起こった場合は人工物を抜去する必要があります。また、手術からかなり時間が経過して発生する遅発性感染も、少数ですが起こりうることです。


5) 被膜拘縮 (インプラント法)

人工物を挿入した約1ヶ月後くらいより、人工物の周りに硬い膜が出来ることがあります。ご本人の体質的要素も関連します。とくに従来型のティッシュ・エキスパンダーを使用した際におこることが多く、乳房変形の原因となります。その場合、人工乳房を入れ替える際に出来るだけ直します。


6) 術中・術後出血 (インプラント法、筋皮弁法)

インプラント法による、術中・術後の大量出血の可能性はかなり低いですが、筋皮弁法の場合は術前に自家血輸血の準備が必要です。ごく稀に他家輸血を必要とすることもあります。


7) 一般的な手術や麻酔のリスク (インプラント法、筋皮弁法)

全ての手術や麻酔には様々なリスクがあります。医療は確実に進歩していますが、非常に稀なことですが、アナフィラキシーショック、重症不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症などの重篤な合併症の発生も完全には否定は出来ません。


※ 乳房や胸に放射線治療を行った方は2)~5)、糖尿病、肥満等をもつ方は 2)、 3)、 4)、 7)の合併症の頻度が高くなります。
※ 万が一、皮膚壊死や創部の治癒遅延、創離開、感染などが生じた場合は再手術や稀に人工物抜去が必要になる場合もあります。

がんの再発との関係

インプラントは大胸筋という筋肉の下に入ります。局所再発は筋肉の上に発生します。ですからインプラントの存在により局所再発の発見の妨げになることはありません。またインプラント法は大胸筋の下にインプラントを入れるので、外科の先生の診察や画像検査の妨げになることはなく、乳癌の発見が遅れることはまずありません。自家組織(筋皮弁)で再建された場合は胸をご自分の筋肉、脂肪でおおうので局所再発が見つけにくい場合があります。このため定期的な画像検査が必要です。

乳頭・乳輪の再建

更に、乳頭・乳輪の再建を希望された場合は乳頭・乳輪の再建を行います。
外来手術で日帰りが可能です。
乳輪再建は
1) 健康側の乳頭の半分を使う方法
2) 再建した方の皮膚を持ち上げる方法

乳頭再建は
1) 足の付け根、色がついた皮膚を用いる方法
2) タトゥー(刺青)を用いて色をつける方法等があります。
乳房再建は決して良いことばかりではありません。乗り越えていかなければならないことも多いのです。悩みや分からないことは形成外科医、乳腺外科医、ご家族などとよく話し合い、あくまでもご本人みずからの意志で手術をされるか決めて下さい。このことが最も大切なことです。